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「2025学生研究・調査・開発活動支援」成果報告3

企画 伝統的工芸品の3世代親子体験の提案
団体名 行本ゼミナール
代表 田畑 航成
メンバー 小野 晃幸、佐藤 楓花、藤野 愛子

1.研究概要

日本の伝統工芸品産業は、長年にわたり技術継承と文化保存の重要な役割を担ってきた。伝統的工芸品産業の振興に関する法律(伝産法)に基づき、経済産業大臣が指定する伝統的工芸品は、地域の歴史や文化を体現する貴重な文化資産である。しかし近年、伝統工芸品産業は深刻な課題に直面している。需要の低迷、後継者不足、そして最も根本的な問題として、若い世代における認知度の低下が挙げられる。特に若年層においては、伝統工芸品の存在自体を知らない、あるいは「自分とは関係のない遠い存在」として認識されているケースが多い。神奈川県には箱根寄木細工、小田原漆器、鎌倉彫など、多様な伝統工芸品が存在する。中でも鎌倉彫は、鎌倉時代から続く歴史を持ち、独特の彫刻技法と漆塗りの美しさで知られている。鎌倉彫工芸館では体験教室も開催されているが、集客に課題を抱えており、特に若い世代へのアプローチが不十分な状況にある。

研究の目的としては、若い世代における伝統工芸品の認知度の現状を明らかにし、認知不足の要因を分析すること。特に20代から40代の親世代と、その子ども世代である小学生を対象に、伝統工芸品に対する認識、関心度、体験意欲を調査する。伝統工芸品の職人が抱える課題、特に認知拡大と集客に関する困難を明らかにし、職人側のニーズを把握することである。これらの分析に基づき、若い世代への効果的な認知拡大手法として「3世代親子体験」という新しいアプローチを提案し、その実現可能性と期待される効果を検証することが研究の目的である。

2.現状分析

全国的にいうと、日本の伝統工芸品産業は、長期的な衰退傾向にある。経済産業省の統計によれば、伝統的工芸品の生産額は1980年代をピークに減少を続けており、多くの産地で事業者数の減少が報告されている。この背景には、ライフスタイルの変化による需要減少、安価な輸入品や代替品の流入、職人の高齢化と後継者不足などの構造的な問題が存在する。特に深刻なのは、若年層における認知度の低下である。日常生活において伝統工芸品に触れる機会が減少し、「伝統工芸品は高価で自分には関係ない」「古臭い」といったイメージが定着している。この認知不足は、需要減少と後継者不足の両方に影響を及ぼす根本的な課題となっている。

本研究が対象とする鎌倉彫は、鎌倉時代に中国の彫漆技法を取り入れて発展した伝統工芸品である。木地に刀で文様を彫り、その上に漆を塗り重ねる技法が特徴で、彫りの立体感と漆の艶やかさが調和した独特の美しさを持つ。鎌倉彫工芸館は、鎌倉駅から徒歩約10分という好立地にあり、展示・販売に加えて体験教室も実施している。しかし、来館者の多くは高齢者や観光客であり、地元の若い世代や家族連れの参加は限定的である。また、体験教室の存在自体が十分に認知されていないという課題もある。本研究では、鎌倉彫工芸館の職人である宍倉幸氏にヒアリング調査を実施した。調査の目的は、職人の視点から見た伝統工芸品産業の課題、若い世代への期待、体験教室の現状と課題を明らかにすることである。宍倉氏は、「若者に伝統工芸品を認知、理解してほしい」という強い思いを持っていた。職人としての技術や知識を次世代に伝えたいという願いがある一方で、若い世代との接点が少なく、どのようにアプローチすればよいか分からないという悩みを抱えていた。宍倉氏は、「現地に足を運んで体験してもらいたい」と強調した。インターネットや動画で情報を得ることはできても、実際に手を動かし、木の感触や刀の重さを感じることでしか伝わらない価値があるという。この発言は、体験型プログラムの重要性を示唆している。

3.課題

最も基本的な課題は、若い世代が伝統工芸品の存在自体を知らないことである。アンケート調査でも「よく知らない」「身近にない」という回答が多く見られた。日常生活において伝統工芸品に触れる機会が減少しており、特に都市部に住む若い世代にとっては、伝統工芸品は「どこか遠くに存在するもの」という認識になっている。鎌倉彫の場合、鎌倉という観光地に位置しているため、一定の知名度はあるものの、「体験できる」という情報までは届いていない。多くの人が鎌倉彫という言葉は聞いたことがあっても、実際にどこで見られるのか、体験できるのかを知らないのが現状である。名前を知っていても、その価値や魅力を理解している人は少ない。伝統工芸品の価値は、歴史的背景、職人の技術、製作過程の複雑さ、使用する素材の質など、多層的である。しかし、これらの価値は実際に見て、触れて、体験しなければ十分に理解できない。

次に挙げられる課題は、アクセスに関する課題である。体験教室が開催されていても、その情報が若い世代に届いていない。職人へのヒアリングでは「集客が難しい」という声があったが、これは広報手段の不足が主な原因である。従来の広報手段(チラシ、ポスター、自治体の広報誌など)では、若い世代へのリーチが限定的である。現代の若い世代は、情報収集の手段として主にインターネット、特にSNSや検索エンジンを利用しているが、多くの伝統工芸品関連施設ではこれらのデジタル媒体の活用が不十分である。

4.提案

本研究では、前章で明らかにした課題に対する解決策として、「3世代親子体験」という新しい体験型プログラムを提案する。単なる体験教室ではなく、家族のイベントとして位置づけることで、様々な効果を狙う。3世代親子体験は、年間3回のシリーズとして実施する。5月:母の日体験。6月:父の日体験。9月:敬老の日体験。このようにシリーズ化をすることにより、継続的な関心を得られると考えた。一度の体験で3つの世代に同時にアプローチできる効率性がある。

家族のストーリーの創造:3世代が一緒に体験することで、単なる「体験教室」ではなく「家族のイベント」となる。子どもが作り、親が連れていき、祖父母が喜ぶというストーリーが生まれることで、記憶に残りやすく、語り継がれる体験となる。

世代間の価値観の伝達:祖父母世代は、伝統文化に対する理解や敬意を持っていることが多い。その価値観が、体験を通じて子どもや親に伝わることが期待できる。「おじいちゃんが大切にしているもの」という文脈で伝統工芸品を認識することで、子どもの中に特別な位置づけが生まれる。

参加のハードルを下げる:一人で参加するのは勇気がいるが、家族で参加するなら気軽に参加できる。特に、祖父母が「行ってみたい」と言えば、親も子どもも付き合う形で参加でき、全員が楽しめる可能性が高まる。

集客方法としては、地元の鎌倉FM さんに協力を要請すること。また、アソビューというサイトを使い集客をしたいと考えた。

5.謝辞

最後に本企画を進めるにあたり、「学生企画プロジェクト」を採択していただいた神奈川大学国際経営学会に厚く御礼申し上げます。